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東京高等裁判所 昭和51年(ラ)130号 決定 1976年5月18日

抗告人 甲野一夫

相手方 甲野花子

主文

本件抗告を棄却する。

抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

抗告人は、「原審判は不服である。」との趣旨の抗告状を提出し、抗告理由として別紙のとおり主張した。

よって判断するのに、≪証拠省略≫によれば、相手方は開業医をしていた亡乙山十郎の二女で裕福な家庭で生育した者であり、抗告人は亡海軍軍人甲野一郎の長男であるが三才の頃父が死亡し、三人の姉とともに母月子の女手ひとつで育てられた者であって、現に大蔵事務官であり、右両名は昭和四四年一二月一一日挙式して東京都内において結婚生活に入り、翌四五年一月一二日婚姻の届出をした夫婦であり、二人の間に同年九月一日長男三夫が出生していること、両者は結婚の当初から結婚観や生活感情に食い違いがあって心からうちとけ合うこともなくその関係はとかく円滑を欠き、しかも抗告人が長男出生の直前である昭和四五年七月奈良に転勤したため一時別居のやむなきに至ったが、その間益々両者の疎隔は拡がり、同年一二月相手方が三夫を連れて奈良に赴き親子三人の共同生活をするようになってもとかく両者の仲はしっくりと行かず、そのようなこともあって相手方は結婚直後の昭和四五年一月頃以後何かと名目をつけては長野県○○市の実家に行き、三週間以上も滞在して帰宅しなかったことが何度があったが、次第に抗告人に対する愛情を失い抗告人との婚姻生活の継続に耐えられなくなり遂に昭和四七年三月二八日抗告人を奈良に残し三夫を伴ってその許を立去り、以後別居し同年七月二一日東京家庭裁判所に離婚を求める調停申立をするに至ったものであること(昭和四七年(家イ)第四五五〇号夫婦関係調整事件として現在調停続行中)抗告人は相手方の別居後は相手方が妻としての同居義務を履行していないとして相手方に対して生活費の送金をせず、相手方は幼い三夫の養育に精一杯で他に就職して収入を得るだけの余裕がなく無職無収入であって長野県○○市に住む相手方の母咲子からの仕送りと援助とによって自己と長男三夫との生計とを維持していること、このように当事者間の夫婦関係が破綻に瀕するに至ったのについては相手方にわがままなところがなかったとはいえないにせよ、抗告人が勤務の多忙にかまけて相手方との話合いを十分することなく相手方の気持を思いやり相手方と協力して潤いのある家庭を育成しようとする努力に欠けたため相手方をして抗告人に相手方をいたわり三夫を愛する心がないのではないかと疑わせ遂には相手方の抗告人に対する愛情まで失わせるに至ったことによるのであって、その責任は双方にあり、少くとも相手方に全部又は一方的に責任があるとはいえない。そこで抗告人は当然に相手方及びその養育する三夫の生活費等を分担しなければならず、本件審判は昭和四九年二月一八日申し立てられたこと及び抗告人に七十余才の老母五十余才の姉があり抗告人は自己の生活の他に勤務の関係等で別居している彼女らの生活をも顧みなければならないことがあることを考慮しても前記資料によれば真実に所有権が母にあるか抗告人にあるかは暫く措き公簿上母所有名義の土地家屋のあることが認められ、右事実を同資料にあわせると、なお抗告人の総収入のうちその自由に使用し得る分としてすくなくとも昭和四九年月額一〇万円、昭和五〇年以降月額一六万円あったことが認められるのであるから、その範囲において原決定が定め抗告人に支払を命じた費用分担額は相当と認めるべく、さらに、既に説示したように抗告人と相手方とは昭和四七年三月二七日以来別居し、長男三夫は相手方とともに生活しているのであり、同年七月以降前記調停事件が係属中であるから、その状態において相手方が三夫を抗告人に引き渡さずまた抗告人を三夫にあわせずにその生活費を含め抗告人に対し婚姻費用の分担の審判を申し立てることは当然に許されることであり、これをもって権利の濫用ないし違法であるという抗告人の主張も採用し難い。

以上のように、原審判には抗告人主張のような違法はなく、なお、記録を精査してもその他の点についても原審判には違法な点がない。

よって、原審判は相当であり、本件抗告は理由がないからこれを棄却し、抗告費用は抗告人の負担とすることとして、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 吉岡進 裁判官 園部秀信 太田豊)

<以下省略>

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